お話していると、郵便局の車がやってきました。たくさんの箱に入ったお歳暮用のシクラメンを郵便局の方が車に積んでいきます。
「このシクラメンはみんな、お客さんがここに来て、自分で選んだものなんです。これだけの種類と数がありますからね。選択肢がたくさんあることがここでの直売の魅力のひとつじゃないでしょうか。色なんかはお客さんの好みで選んでもらうけど、株のしまりや芽数などはアドバイスします。それから、流通の間に品質が落ちることも無いですから、そこも売りですね」
横山さんは、農園直売のほかに、茅ヶ崎の朝市と、都内と神奈川の市場でシクラメンを販売しています。
「市場に行くときはトラックで200鉢くらい持っていきます。市場にはいろんな業界の人が花を買いに来ますから、楽しいですよ。映画の撮影や結婚式に使うという人なんかもいます。以前、某テーマパークに使うと言う方がうちのセージが買われていったこともありました。」
そうか、お花はお花屋さんだけじゃなくて、いろんな行き先があるんですね。
「普段はここの農場と、少し離れたもうひとつの農場と、市場にしか行かないもので、朝市があると『あ、自分の髭の手入れしなきゃ』と思えるのでちょうどいいんですよ(笑)。朝市ではお客さんに目で楽しんでもらえるように、にぎやかに見せる段を作って並べます。飾りかたを提案したり、会話が出来るのが良いですね」
「ここでの直売は品質の維持が売りと言いましたが、本当は、花屋だって花を売るだけじゃなくて管理や説明がきちんとできないといけないんです。最近はホームセンターのようなところで安く売られているものもありますが、品質管理はちゃんとしてほしいと思います」
横山さんが丹精込めて育てたシクラメン、お客さんのところに届くまで、そのままの品質でいてほしいですもんね。
「たまに、すごくぶっきらぼうに値切ってくるお客さんもいるんですよ。『お客様は神様』扱いに慣れてしまったんでしょうね。シクラメンに限らず、『自分は作れるの?』と自問してほしい。作った人の気持ち、苦労を汲み取れる人間でいてほしいと思います」
農園の隣にある横山さんのお宅で、シクラメンや農業のお仕事について、さらにお話を伺います。
横山さんが小さな小さな茶色い種を持ってきてくださいました。
「この種は『アンジェリカ』という品種で、花はオレンジっぽくてまわりが白い色をしています」
一見、インスタントコーヒーの粒のように見えるのですが、これがシクラメンの種なんです。しかも!鉢ひとつ分のシクラメンが、このとっても小さな種一粒から出来ているというから、びっくりしてしまいました。驚いている私に、「人間と同じですよ。人間だって、小さな卵子からこんな大きな大人になるんだから」と横山さん。うーん、生物って神秘的ですね。
「種は自分で作るんです。出来た種は、一品種につき200粒ずつまとめておきます。人が一粒一粒数えるんですよ。種を土に撒いたら、はじめはシートで遮光します。芽が出たらだんだん光のなかに慣れさせていくんです」
「シクラメンは病気も、害虫も多いんです。6年前、かなりの数のシクラメンが病気になってしまい、もちろん収入も減って、ノイローゼになりそうになったこともあります」
横山さんは、シクラメン栽培の苦労も教えてくださいました。
「昔は、2月、8月はのんびりしていたんですけどね、今はそれではやっていけないので周年栽培に切り替えて、休みも無いです。バブル崩壊以降はシクラメンの単価が下がってしまった。それに肥料のうち、リン酸は日本では100%輸入になっていますから、リーマンショック後に値上がりして、関税が倍くらいに上がってしまった。もちろん重油も値上がりして、どんどんつらくなっていった」
「花卉農家は景気のあおりを受けやすい。食べるものと違って、出費を削られやすいですから。シクラメン農家は減ってきています。生き残るためにはいろいろな方法がありますが、うちは品質を良くしようと考えた。量を求めたら忙しいだけでしょう。自分たちの仕事は職人みたいなところがあると思っているんです。ものをつくる仕事はある程度の品質がないといけないと思う。大事なのは中身です。うちも鉢をおしゃれなものにするような工夫はしているけど、箱や鉢をいくら頑張っても中身がちゃんとしていないとね」
横山花園は、横山さんが2代目。お父さんがシクラメン農家を始められたそうです。種苗会社を辞めて独立、近所の大地主の土地を借りて新規就農されたそう。横山さんのお宅には、新規就農ながら多くの研修生を育てるまでに成功されたお父さんを称える賞状がたくさん飾られていました。
「父から農家を継げと言われたことは無いですけど、自然と継ごうと思っていました。父は全国から研修生を受け入れて、一度に7人いたこともあるんですよ。子どものころは研修生たちがお兄ちゃんのように思えて、みんなでわいわい暮らすのが楽しかった。農園に来たお客さんが喜ぶ顔を見たり、市場に一緒に行ってジュース飲んだり、そんなささいなことだけど良い思い出が多かった。それが良かったのかもしれませんね。父は、やればやっただけ報われるということ、やりぬく姿勢を背中で教えてくれていました」
「継いでからは、栽培の方法を尋ねても「水やれ」とだけ言われました(笑)。父の世代の農家は勘でやる人が多いんです。私は、次の世代には数字や言葉で残せるものは残したいと思っています」
そして今では自らも研修生を育てていらっしゃる横山さん。
「自分がやりたいと思わなきゃ駄目です。研修生のなかにも、人に勧められて来た子は『教えてもらいに来てます』という態度なんです。受身なんですよ。そうじゃなくて、自分から教わろうとしなきゃ。研修中は怒られればいいんです。研修後、独立すればすべて自分の責任になります。その前に、師匠が責任をとってくれるうちに怒られておいたほうがいい」
農家さんだけじゃなくて、どんな仕事にも言えることですよね。この言葉を肝に銘じて社会に出ようと思いました。
「この仕事をやっていてよかったなと思うことは、いろいろありますよ。シクラメンを自分の思うように作れたときや、お客さんの喜ぶ顔を見られたとき。たまに、ピン、と花が咲く瞬間が見られることがあるんですけど、シクラメンは花を咲かすのも難しいので、嬉しいです。夜、ハウスに見回りに行って、電気の下で花を見ると幻想的で綺麗なんですよ。夕陽の色でなんともいえない色にもなりますし、花を見ていると満足した気持ちになりますね。それから芽がいっせいに出たときも嬉しいですね」
「シクラメンは育てるのが難しいと言われていますけど、ぜひ怖がらずにやってみてほしいです。わからないことはどんどん聞いてもらえれば、バックアップしますので。一年でこの時期だけですから、楽しんでほしいなと思います。楽しみかたは人それぞれですからね。うちでは葉組みをして形を整えていますけど、ぱーっと咲いているのが好きな人だっているでしょう。好きなように楽しんでほしいです」
「それからやっぱり、生きものとして見てほしいです。よく水遣りは何日に一回やればいいのか聞かれますが、環境によっても変わってきますからね。欲しがっていたら、乾いていたらあげる。シクラメンに聞いてあげてください」
横山さんの言葉の端々から、シクラメンへの愛情がひしひしと伝わってきた一日でした。横山さんに育ててもらえるシクラメンはきっと幸せだろうなあ。
実は私、何度も植物を枯らしてしまった経験があり、お花屋さんの鉢植えコーナーはいつも素通りしていたのです。でもこの日、愛情が詰まった色とりどりのシクラメンに囲まれながら横山さんのお話を伺ったことで、シクラメンに親しみを感じるようになりました♪
お店に並んでいる野菜だけじゃなくて、お花の向こう側にも農家さんの苦労と愛情が隠れていること、改めて実感できました!
横山さん、どうもありがとうございました!







